目次:風邪をこじらせて肺炎になる?風邪と肺炎の違いとは

■冬に呼吸器感染症が多いワケ
■患者さんからよく言われる「風邪をこじらせて肺炎に」はホント?
■風邪と肺炎、原因の違いとは?
■風邪はこじらせても勝手に治る
■まとめ

冬に呼吸器感染症が多いワケ

私は呼吸器内科医を何年もしていますが、冬になるとウイルス感染症の患者さんが増えます。これはおそらく気道がカラカラに乾燥してしまって、免疫が正常に機能しないためではないかと思います。日本は梅雨はかなり湿潤な気候なのですが、冬はグンと湿度が低下します。湿度が低下すると、水分が蒸発してウイルスが大気中にふよふよと浮遊しやすくなります。そのため、ウイルスは湿度の高い口や鼻の粘膜などにくっつきやすくなるのです。というわけで、ありとあらゆる呼吸器感染症は冬に多いとされています。実際に成人の風邪の原因であるライノウイルスは冬に悪化しやすいという報告もあります(1)。

患者さんからよく言われる「風邪をこじらせて肺炎に」はホント?

私は外来の風邪(かぜ症候群)から入院の重症肺炎まで、ありとあらゆる呼吸器感染症を診療していますが、よく肺炎で入院した患者さんに言われることがあります。

「数日前から風邪っぽかったんだ、こじらせて肺炎になったんですね」
「やっぱり肺炎だったんですか、子供の風邪がうつったんですね」
といった内容です。

私も患者さん相手に敢えてムキになって否定しませんが、実は風邪をこじらせて肺炎になるというケースは極めてまれな現象だと思います。実臨床ではほとんど存在しないと言っても過言ではないかもしれません。

ちなみにここで表記するかぜ症候群とは、急性上気道炎(普通感冒)のことを指します。

風邪と肺炎、原因の違いとは?

【かぜ症候群の原因】80~90%がウイルス

かぜ症候群の原因は80~90%がウイルスといわれています。これは小学校でも習うことかもしれないくらい、よく知られていることです。有名なウイルスとしては、先ほど登場したライノウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルスあたりが挙げられます。なんだかカタナカばかりですね。冬の場合はインフルエンザウイルスも流行しますね。ただ、インフルエンザウイルスはあまり一般の方々には「風邪」とは認識されていないようです。インフルエンザは、タミフル®やリレンザ®といった治療薬が存在し、またワクチンによってある程度予防ができるため、かぜ症候群とは別の疾患として浸透しています。

さて、ウイルスの中には肺炎になるようなこわいものもあります。たとえば、あまり耳にしたこともないようなウイルスが肺炎を起こすことがあり、私も外来で特殊なくすりを使っている患者さんで、何度かそういった事例を診たことがあります。抗がん剤の治療中だったりHIVに感染してエイズを発症してしまったり、免疫が落ちてしまった患者さんでもそういうことが起こります。また、インフルエンザの患者さんをたくさん診療していると、年に1回ほど肺炎になる患者さんを診ることがありますが、その多くはたくさん病気を持っている高齢者です。

ゆえに、それほど病気をたくさん持っていない健康な人が、簡単にウイルスによって肺炎になることはないと言えるのです。

【肺炎の原因】ウイルス性ではなく細菌性

ウイルス感染症も肺炎になることがあるなら、風邪をこじらせたら肺炎になるという理屈は正しいじゃないかと思われるかもしれません。ここで、肺炎の患者さんを見てみましょう。外来や入院で胸部レントゲン写真で「カゲがありますね」と肺炎を指摘された患者さんのほとんど全員は、感染症と戦うための白血球や炎症反応(CRPなど)がググっと上昇しています。喀痰(かくたん)を調べると、細菌が見えます。実際に私たちが遭遇する肺炎のほとんどは、こうした細菌による肺炎なのです。いいですか、ウイルス性ではなく、細菌性なのです。

そのため、その患者さんがゴホゴホと数日前から咳をしていたとするならば、それは細菌感染症による咳であって、決してかぜ症候群の咳ではないことを意味します。そのため、「風邪をこじらせて肺炎になったと」いうのは誤りで、「肺炎を発症する前に風邪のような前症状があった」というのが正しい表記でしょう。発症したての頃は、かぜ症候群なのか細菌性肺炎なのか分からないことがしばしばあるからです。

マイコプラズマや百日咳という細菌のように、家族内で広がる可能性のある細菌もありますが、基本的に肺炎を患ってやってきた患者さんは、単独で発症されていることがほとんどで細菌性肺炎が周りにどんどん広がるという事態はまずありません。

患者さんはかぜ症候群と肺炎をどうやって判断したらよいのでしょう。心配要りません、大丈夫です。それを調べるのが私たち医師なのです。風邪っぽいなと思っても、なかなか治りにくそうなら早目に病院へお越しください。その結果、かぜ症候群と診断されてもよいのです。「肺炎がなくてよかったですね」と私たちも安心材料を提供できますから。

風邪はこじらせても勝手に治る

かぜ症候群はウイルス感染症ですから、よほど免疫が落ちていない限りはほうっておけば治ります。インフルエンザウイルスに対するタミフル®やリレンザ®も熱が出続ける期間を半日~1日程度減らす効果はありますが(2)、決してウイルスをコテンパンにやっつける特効薬というわけではありません。しかし、細菌性肺炎はたとえ免疫力があったとしても抗菌薬を投与しないと治らないこともあります。

そのため、胸部レントゲン写真で明らかに肺炎があった場合、ほとんどは原因が細菌性だろうと判断し、私たちは抗菌薬を処方します。「インフルエンザだからタミフル®やリレンザ®を処方する」という判断と、「肺炎だから抗菌薬を処方する」という判断では圧倒的に後者の方が優先度が高いのです。

そして、一番やってはいけないと私が思っているのは、かぜ症候群に対する抗菌薬の処方です。最近は減りましたが、実際の臨床ではまだまだ多いのがこの問題。これについてはまた別の機会で述べたいと思います。

まとめ

・呼吸器感染症は冬に多い
・肺炎は、厳密には風邪をこじらせてかかるものではない
・なかなか治りにくい風邪だと思ったら、まずは病院を受診する

参考文献

1) Lee WM, et al. Human rhinovirus species and season of infection determine illness severity. Am J Respir Crit Care Med. 2012 Nov 1;186(9):886-91.
2) Dobson J, et al. Oseltamivir treatment for influenza in adults: a meta-analysis of randomised controlled trials. Lancet. 2015 May 2;385(9979):1729-37.